東京地方裁判所 昭和24年(ワ)2498号 判決
原告 銀座土地株式会社
被告 合名会社東京広田組 外一名
一、主 文
被告等は、原告に対し、東京都中央区京橋湊町三丁目二十三番地四号、家屋番号同町二百五十七番一、鉄筋コンクリート造四階建一棟建坪二十五坪七合七勺の内、一階二十四坪を明渡すこと。
被告等は各自原告に対し、昭和二十二年十二月一日以降昭和二十三年十月三十一日まで一ケ月金四百十五円、同年十一月一日以降昭和二十四年五月三十一日まで一ケ月金一千三十七円五十銭、同年六月一日以降昭和二十五年七月三十一日まで一ケ月金一千六百十八円五十銭、同年八月一日以降明渡済にいたるまで一ケ月金三千五百二十八円二十三銭の各割合による金員を支払うこと。
原告のその余の請求は棄却する。
訴訟費用は被告等の連帶負担とする。
この判決は原告において被告等に対し金二万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文第一項同旨及び被告等は原告に対し連帶して昭和二十二年十二月一日以降昭和二十三年十月三十一日まで一ケ月金四百十五円、同年十一月一日以降昭和二十四年五月三十一日まで一ケ月金一千三十七円五十銭、同年六月一日以降昭和二十五年七月三十一日まで一ケ月金一千六百六十円、同年八月一日以降明渡済にいたるまで一ケ月金四千百十五円の各割合による金員を支払えとの判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、原告は昭和十六年十一月十六日、その所有に属する主文第一項表示建物(昭和五年以前建築)を被告合名会社東京広田組(以下広田組と略称する)に対し、建物に架設した電話使用料及び棧橋の使用料をも含め、賃料一ケ月金百五十円毎月末日支払の約で賃貸し、その後右使用料を適法に増額し、一ケ月金四百十五円に改めたものであるが同被告は原告不知の間に同建物を被告有限会社東洋商会(以下東洋商会と略称する)に対し、賃料一ケ月金百五十円、毎月末日払の定めで転貸し、原告は昭和二十二年十一月これを知つたので、昭和二十三年二月二十三日被告広田組に対し、右無断転貸を理由として契約解除の意思表示をした。しかるに被告等はいまだ本件建物の明渡をなさず、原告をして右建物に対する賃料相当の損害を被らしめているので、原告は被告等に対し右建物の明渡を求めるとともに、契約解除後たる昭和二十二年十二月一日以降明渡済にいたるまで、各自一ケ月金四百十五円の割合による損害金(但し被告広田組については昭和二十二年十二月一日以降昭和二十三年二月二十三日までは賃料)の支払を求めるため本訴に及んだと陳述し、被告の抗弁事実を否認した。<立証省略>
被告等訴訟代理人は本案前の答弁として、「本件訴を却下する」との判決を求め、
その理由としては、被告広田組は後記のように原告及び訴外明礼輝三郎の両名から本件建物を賃借したものであるが、仮に原告のみから賃借したとしても、右は原告訴訟代理人弁護士明礼輝三郎の尽力によるもので、その後同被告は明礼を顧問として、同賃貸借契約に関する事柄を相談していたが、本件契約解除の問題が起きるや、被告は明礼に相談したところ、権利金五万円を要求したのでこれを拒絶した。その結果同人は原告訴訟代理人として本件訴訟を提起し、訴訟手続を行つているが、同人のかかる所為は、明かに弁護士法第二十五条第一、二号(旧弁護士法第二十四条第一、二号)に違反し、本訴の提起は無効であると述べ、
本件につき、「原告の請求を棄却する」との判決を求め、
事実上の答弁として、原告主張事実中、本件建物が原告所有であること、被告広田組が原告主張日時以降本件建物を賃借しその賃料は一ケ月金百五十円、毎月末日払であつたところ、その後適正賃料が一ケ月金四百十五円に増額され、同被告は昭和二十二年十一月分まで支払つたこと、並びに昭和二十三年二月二十三日、原告よりその主張のごとき契約解除の意思表示があつたことはいずれも認めるが、その余の事実を否認する。すなわち、
(一) 被告広田組は、(1) 一般輸出入貨物の取扱及び荷造請負、(2) 海上火災保険契約並びに通関手続一切の代理行為、(3) 前記二項に附帶する業務一切を目的とする会社で、右営業のため貨物の取扱、荷造り請負並びにこれに附帶する貨物保管のため本件建物を賃借し、倉庫として使用している。
(二) 被告東洋商会は、(1) 綿布、麻地、絹地及び毛織等繊維製品並びに雑貨の仲介販売及び加工、(2) 諸機械の製作、販売並びにその修理及び同種事業への投資、但し官庁の許可を要するものを除く、(3) 前項に附帶する一切の業務を目的とするものであつて昭和十六年七月十六日設立当時は勿論昭和二十五年一月三十一日解散後といえども、本件建物所在地に本店や事務所を置いたことはなく、これを使用する必要はなかつた。
(三) 原告は東京地方裁判所が原告の申請にもとずき、被告等に対し発した不動産仮処分決定(同決定当時被告東洋商会は解散していたにかかわらず、清算人を代表者として決定しなかつたことは適法である)にもとずき、昭和二十六年三月二十四日、仮処分の執行をしたが、その執行調書中には「債務者東洋商会の雇人西川裕に出会し、本件建物は債務者等の共同占有中にかかるものと認めた」旨記載してあるが、西川裕は、被告東洋商会の雇人ではなく、且つ十八歳の未成年者で、仮処分の何たるかを知らず、その場に居合せたものに過ぎない。その後同月三十一日の点検調書には「債務者代理人宮川仁は、債務者広田組は海運業並びに倉庫業なるため得意先の物件を預り、従つて債務者東洋商会の物件も預りおるだけで、同商会は本件目的物件には占有なき旨陳述せり」と記載せられている。
以上の次第で被告広田組は被告東洋商会に本件建物を転貸したことはなく、被告東洋商会は同建物を占有したことはない。仮に被告広田組が本件建物を被告東洋商会に転貸したものとするも、
第一、本件賃貸借契約における賃貸人は原告銀座土地株式会社一人ではなく、同会社と訴外明礼輝三郎との両名であつて、被告広田組は昭和二十一年九月分以降は原告会社に対しては金七十円、明礼輝三郎に対しては金百四十五円の賃料を支払い、それ以前においても両名に対し各別に賃料を支払つていた。民法第二百六十四条第二百五十一条によると、右のごとき共同賃貸権については、共同してのみその権利を処分し得るものであるから、賃貸借解除の意思表示は両名共同でこれをなすべく原告会社のみが単独でこれをなすも無効である。
第二、本件建物の二、三階においては原告会社取締役石橋が港ホテルを経営しており、同取締役明礼輝三郎もしばしばここに来ている。又被告広田組は本件賃料を右石橋に支払つており、石橋は被告東洋商会の事務所に賃料取立に来た関係もあつて、原告は被告広田組において、被告東洋商会が昭和十六年七月十六日設立されて以来、同被告に建物を転貸している事実を知りながらこれを黙認していたものであるから、無断転貸を理由とする契約解除は無効である。
第三、被告広田組はその無限責任社員皆川太郎が被告東洋商会の設立当初よりその取締役を兼任していたこと、両社の目的とする業務の関係上、被告東洋商会の設立以来昭和二十五年一月その解散にいたるまで、同被告の貨物たる機械類、雑貨等を預かり、殊に昭和二十年三月同被告の日本橋浜町の倉庫が戦災により焼失し建物倉庫の払底した後において、その貨物を預ることが多くなつたもので、被告広田組は右のほか、訴外日本度量衡計量器工業組合、同日新海陸運送株式会社その他多数の会社、商店より貨物を預つている。そして前述のように原告会社取締役石橋匡、同明礼輝三郎は右事実を知悉してこれを黙認していたものであるから、原告の本件賃貸借解除は信義に反し権利の乱用にほかならないから無効である。と述べた。<立証省略>
三、理 由
よつてまず被告の本案前の答弁について判断する。
成立に争のない甲第四号証、乙第一号証の一、二、証人石橋匡の証言(第二回)及び被告広田組代表者皆川太郎訊問の結果の一部によると、原告訴訟代理人明礼輝三郎は、本件賃貸借成立後、被告広田組よりその顧問を依嘱され、以来同被告より顧問料の支払を受けていたことを認めることができるが、明礼輝三郎が本件賃貸借につき、被告等から協議を受けて賛助し又はその依頼を承諾したとの被告等主張事実は肯定できないばかりでなく、前記石橋匡の証言によると、明礼は原告会社設立当時その監査役であつて、本件賃貸借契約締結にはむしろ原告会社側の者として関与したものであり、本件賃貸借解除の問題についても、被告広田組からの交渉に対し明礼は原告会社側に立つて右交渉に応じたものであることを推知するに足りる。よつて原告訴訟代理人明礼輝三郎の本件訴の提起及びその遂行は、新弁護士法第二十五条第一、二号(旧弁護士法第二十四条第一、二号)に違反するから無効であるという被告等の主張は理由がない。
よつて次に本案について判断する。
原告が本件建物を所有し、被告広田組が昭和十六年十一月十六日電話及び棧橋の使用料をも含めて賃料一ケ月金百五十円、毎月末日払の約で賃借し、その後右貸料は増額され昭和二十二年十一月当時の適正賃料が一ケ月金四百十五円であつて、右被告が同月分までの賃料を支払つたこと並びに昭和二十三年二月二十三日、原告よりその主張のような契約解除の意思表示がなされたことはいずれも当事者間に争がない。
そこで本件建物が原告所有である事実と、成立に争のない甲第一号証、証人石橋匡(第一、二回)被告広田組代表者訊問の結果を綜合すると、本件建物はその所有者たる原告が単独で被告広田組に賃貸したものであることが認められる。被告は右事実を否認し、本件賃貸借契約の賃貸人は原告会社及び訴外明礼輝三郎の両名である旨主張し、その証左として乙第一号証の一、二を提出するのでこれを考えると、右乙第一号証の二は明礼が発行したものであり、これによると、同人は原告とともに被告広田組から本件賃料を取立てていたもののように察せられるけれども、右乙第一号証の二と石橋匡の証言(第二回)及び前記甲第四号証とを対照すると、乙第一号証の二の家賃領收証と題する通帳は、右題名のごときものではなくして、甲第四号証記載の顧問委嘱により、明礼が被告広田組より受領することとなつた顧問料の領收証であることがうかがわれる。証人藤巻理三郎の証言その他の証拠によつては右認定を左右しがたい。
よつて本件賃借権が原告と訴外明礼輝三郎との共同賃貸権であることを主張し、原告が単独でなした本件賃貸借契約解除は無効であるという被告等の第一の抗弁は理由がない。
次に、成立に争のない甲第二、三号証の一、二、第五、六号証、証人石橋匡(第一、二回)同佐藤要の各証言、被告等各代表者訊問の結果の各一部を綜合すると、被告広田組は昭和二十年終戦直後頃よりその営業を休止し、本件建物をほとんど使用していなかつたものであるが、被告広田組代表社員皆川太郎は被告東洋商会の取締役を兼ねていたところから、昭和二十一年頃本件賃借建物を原告の承諾を得ずして被告東洋商会に転貸し、被告広田組は本件建物には、その従業員を置かず、同建物の鍵も被告東洋商会の保管にまかせ、建物内に蔵置する物品の整理及び搬出入も被告東洋商会の従業員等においてこれをなし、被告広田組においては、その営業上必要な物品の保管及び保管料の明細を記入した帳簿の備付もしなかつたことを肯定するに十分である。
右認定に反する被告等代表者本人訊問の結果証人藤巻理三郎、同小林啓次の各証言は信用できないし、その他本件における証拠によつては右認定を動かすに足りない。
又前記石橋匡の証言(第一、二回)によると、訴外石橋匡及び訴外明礼輝三郎がいずれも原告会社の役員であり、石橋は本件建物の二、三階において旅館を営むもので、同人が原告会社のため被告広田組及び被告東洋商会より本件建物の賃料の支払を受けていた事実を知ることができるけれども、同人の右賃料取立の事実をもつて、直ちに原告が転貸を黙認したことを首肯することは不当であるばかりでなく、甲第三号証の一、二によると、原告は昭和二十二年十一月二十九日、被告広田組に転貸を理由として本件賃貸借契約の解約申入をなし、更に重ねて昭和二十三年二月二十三日契約解除の意思表示をしたことが明らかである。よつて原告がこの間に転貸を黙示的に承諾したとの事実は本件に現われた証拠によつては認めることはできないので、被告の抗弁第二も理由がない。
次に、又被告等は本件賃貸借解除は権利の濫用であると主張するので考えると、成立に争のない乙第二号証の一、二、第三号証、証人藤巻理三郎、同小林啓次の各証言、被告等各代表者訊問の結果を綜合すれば、被告等はいずれもその主張のとおりの業務を営むことを目的とする会社であり、被告広田組代表社員皆川太郎が昭和十六年七月十六日被告東洋商会設立当時よりその取締役であること、昭和二十年三月中被告東洋商会の倉庫が焼失したことを認めるに足り、その頃以後一般建物及び倉庫が破壊焼失して払底したことは当裁判所に顕著な事実であるが、前述のとおり被告広田組は、原告がその使用を全く予想しなかつた被告東洋商会に対し本件建物を転貸しながら、右につき原告の承諾を求めることをせず、これを黙秘していたものであるから、被告広田組のかかる所為は、たとえ前記認定のような事情があるにせよ賃借人たるの信義に反するものであつて、原告がこの場合無断転貸を理由に賃貸借を解除したことは何等一般正義の観念に反せず、これを目して権利の濫用ということはできない。
よつて本件賃貸借契約は昭和二十三年二月二十四日以降解除されたものというべきであるところ、同被告がいまだ本件建物を明渡さないことは同被告の明かに争わないところであるから、これを自白したものと認むべく、原告に対し、右解除後明渡済にいたるまで建物の賃料相当額の損害金を支払わなければならない。そして特別の事情につき、主張のない本件において右賃料相当額は前述適正賃料たることにつき当事者間に争のない一ケ月金四百十五円を基礎とし、物価庁告示に従い算定すれば(本件建物が昭和五年以前完成の建物であることは被告等の明かに争わないところである)昭和二十三年十月十一日以降昭和二十四年五月三十一日までは一ケ月金一千二百四十五円(但し原告は本訴において右の範囲内たる一ケ月金一千三十七円五十銭の支払を求めた)同年六月一日以降昭和二十五年七月三十一日までは一ケ月金一千六百十八円五十銭であると認めるのを相当とする。又同年八月一日以降は倉庫の賃料については地代家賃統制令の適用はないが、その適用ある一般建物の賃料に対する修正率に準じて算定すると、一ケ月金三千五百二十八円二十三銭なることが明であるので特段の事情の現われていない本件においては原告の被むるべき損害はこれと同額と認めるのほかはない。よつて被告広田組は原告に対し本件建物の明渡をするとともに、昭和二十二年十二月一日以降右明渡済にいたるまで右賃料及び損害金を支払うべき義務あるものであつて、原告の同被告に対する本訴請求は右の限度においては正当であるからこれを認容し、その余は失当であるので棄却する。
又被告東洋商会は本件建物を不法に占有するものであること前述のとおりであるから原告に対しこれを明渡し、且つ昭和二十二年十二月一日以降右明渡済にいたるまで被告広田組と連帶して前記と同一割合による損害金を支払うべき義務あるものである。従つて、原告の同被告に対する本訴請求は右の限度においてのみ理由ありとしてこれを認容し、その余を失当としてこれを棄却する。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条に則り主文のように判決する。
(裁判官 原宸)